410

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CONCEPT
美容院「410」は大阪梅田の隣町、中崎町に立地する。この中崎町は、戦時空襲で焼けのこった地域であり、古い町家や木造長屋が多く残る独特の風景を持った町である。昨今、この地域に小資本で、店舗や事務所をかまえる人達が増えてきている。ここではまだ大規模な商業開発行為は見られない、またされるべき場所でもないという気がしている。商業の力によって町の様相が変わり、その表情が均質化していくことは何だかツマラナイ。ある一定規模以上の資本が投入されている地域は、日本全国どこに行っても同じような商業的要素に町の表層を犯されているのではないだろうか。中崎町ならではの風景、中崎町ならではのコミュニティーを残し、そしてつくっていこう。そんな雰囲気がこの町にはある。そこで商業機能をこの、町に新たに挿入しながら、中崎町の戦前からの風景を継続していくためには、スクラップアンドビルドというハイインパクトな建替え手法ではなく、既存のストッックを使えるものは使っていくというローインパクトなリサイクル的手法が必要だと感じていた。

建物は昭和5年建てられ、築71年になる長屋住宅であった。この建物は竣工後これまでに、両隣の長屋の解体に伴う2回の外壁補修工事、そして2回の増築工事、そして今回がおそらく5回目の大がかりな工事となる。この老朽化した家屋を美容院として再生されるにあたり、この建物が持っているポテンシャルをうまく引出し、活用することを考えた。まず、増改築の歴史をコラージュのように刻んでいる外観は、極力手をつけずそのままの状態としている。結果、よくあることだが店舗が出現することによって、町の風景が急に変貌することは起っていない。内部は、既存の構造体を残しながら必要に応じて補強を加えている。細かく部屋を仕切っていた壁はほとんど取り払い、2階の床を一部抜き、小屋裏を露出させ、最高6.7mの天井高を持つワンルーム空間をつくっている。

ここでは、大阪の下町のどこにでも目にする古い木造長屋が、その面積は狭小ながら、生み出すことができる縦方向の空間性を見い出そうとした。また「410」では、美容院の機能だけでなく、内部空間をギャラリーとして開放したり、隣長屋が切り取られ、補修した亜鉛波板銅板の外壁にアーティストが半年に一回程度のスパンで描き変えていく地域に向けた壁画ギャラリーを計画している。中崎3-4-10という場所は、単なる商業スペースではなく、この中崎町という地域にとって、ひとつのパブリックな場所となるであろう。



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